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脳梗塞の治療 ~ Time is brain. ~

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2016年12月01日

2016年9月 みんなの健康講座「脳梗塞の治療 ~ Time is brain. ~」 抄録

横浜新緑総合病院 脳神経センター 脳神経外科 副部長 野田昌幸

時は金なり(Time is money.)。この言葉は、お金と同様に時間も浪費しないように有効に使いましょうという 意味ですが、アメリカ合衆国建国の父の一人とされるベンジャミン・フランクリンが言った言葉から引用されています。

ちなみに 彼は、100 ドル札紙幣の肖像になっており、日本で言えば、聖徳太子や福沢諭吉といった存在です。ちなみに 脳梗塞の治療には、「Time is brain.」という言葉があります。恐らく、「Time is money.」から派生した言葉ですが、いかに時間を浪費しないかが脳梗塞治療の要であることをよく表しています。

≪脳梗塞の治療≫

脳梗塞の治療はここ 20 年の間に急速に進歩している領域です。日本では、2005 年にアルテプラーゼ(血栓 =脳梗塞の原因となる血の塊 を強力に溶かして血流を再開通させる薬)を静脈に点滴投与する治療法が保険適応となりました。さらに 2010 年~2015 年にかけては、カテーテルを動脈内に入れて、ステント等の機械使用 して、血栓を直接回収したり、吸引したりする方法(血栓回収術)が続々と保険適応になりました。これらの治療法によって、以前なら寝たきりになってしまっていたような状況でも、後遺症をほとんど残さずに社会復帰するケースも 見られるようになりました。

しかし、これらの治療が万能かというと、必ずしもそうではありません。様々な条件を満たした場合のみ、治療が可能となります。そのうち一番大事な条件が「時間」です。ちなみに、アルテプラーゼは「発症から 4.5 時間以内」、血栓回収術は「治療開始が発症から 6 時間以内、再開通が発症から 8 時間以内」という時間的な制約・条件があります。

脳梗塞で血流が途絶えると 1 分で 190 万の脳神経細胞が死滅すると言われています。治療によって脳血流 が再開通するわけですが、その効果を数字で具体化すると、「治療が 1 分早いと、健康に過ごせる時間が 1.8 日 伸びる」、「治療が 15 分早いと、自力で動けるようになる人が 8 人増加し、死亡する人が 4 人減る」と言われてい ます。また逆の考え方で見てみると、「治療が 2 時間遅いと、100 人中 26 人が自立できない状態に陥る」、 「治療が 5 分遅いと、一人の有意義な人生が奪われる」と言われています。

≪人生の襷リレー≫

脳卒中治療は、通報する本人・家族・周囲の人、救急隊員(救命救急士)、病院事務、看護師、放射線 技師、臨床検査技師、医師と多数の協力の中で成立します。

全てのメンバーが、「5 分の無駄が、一人の人生を奪ってしまう。」というプレシャーの中で、診療に当たらなくては いけません。また、現在も急性期脳卒中の治療に携わっている多くの施設が、「いかに効率よく治療にまで到達でき るか」、「いかに早く脳血流を再開通させるか」を念頭に日々努力しています。これは、箱根駅伝の強豪校である 東洋大学のスローガンとして有名になった「その一秒を削り出せ」という言葉にも通じます。

患者さんにとっての人生の 襷リレーを無駄なく、良い状態でつなぎたい、この思いが、「Time is brain.」という言葉に込められています。